ソフトマターの物性と構造を同時に評価可能な新システム

ソフトマターとは

私たちの身の回りには、「ソフトマター」と呼ばれる柔らかい物質が数多く存在します。例えば、プラスチックやゴムなどの「高分子材料」、食料品や化粧品などの「コロイド分散系材料」、パソコンやスマートフォンの画面で使われる「液晶」などが代表的なソフトマターです。

近年ではソフトマターの様々な特徴や機能性を活かした商品がたくさん開発されています。例えば、ハンドクリームなどの「塗る材料」には「塗りやすく、かつ塗ったあとはその場にとどまる」という特徴が備わっているものがたくさんあります。本来、塗りやすい(変形しやすい)性質と、その場にとどまる(形を維持)性質は相反するものなので、私たちが普段の生活で何気なく使っているソフトマターには、用途に合わせた様々な機能が備わっているのです。

ソフトマターの開発で活躍するレオメータ

では、様々な機能性をどのようにしてソフトマターに付与しているのでしょうか。それは、材料へ与える刺激(力)と、それに対する応答(変形・流動)の関係、つまり材料の物性を巧みにコントロールすることにより実現しています。そして、材料の物性をしっかりとコントロールするためには、まず、その物性自体を定量的に評価する必要があります。

レオメータは、ソフトマターの様々な物性を計測・評価することができる測定装置です。世界中の様々な分野でソフトマターへの期待が高まる中、レオメータを使った新規材料の開発や既存材料の改善が進められています。

偏光ハイスピードカメラとレオメータの最強タッグ!

しかし、実際の材料の新規開発や改善には多くの試行錯誤が伴います。これは、レオメータを用いた評価だけでは、なぜそのような物性(機能)を示すのか、といった“メカニズム”を説明するための情報が不足するためです。

ソフトマターが持つ様々な物性(機能)の”メカニズム”は、材料内部の構造への刺激に応じて変化します。先ほどの例にあったハンドクリームでは、小さな力では材料の形を維持するような構造を形成しますが、大きな力では流れやすい構造に変化します。

ソフトマターを構成する材料は様々なため、形成される構造の形態やその変化は材料によって大きく異なります。したがって、形成される構造はどのような形態なのか、そして構造変化はどのような条件でどのように生じるのか、これらを知らなければニーズに応える材料をスピーディーかつ効率よく設計・開発することは困難です。

しかしながら、レオメータで取得できる物性データだけから、上述した構造に関する評価を行うことはできません。

このようなニーズに応えるため、株式会社アントンパール・ジャパン(https://www.anton-paar.com/jp-jp/)と協同のもと、レオメータと偏光ハイスピードカメラを組み合わせた独自の測定システムを開発しました。

このシステムでは、レオメータを用いた様々な物性データの測定と、偏光ハイスピードカメラを用いた構造変化の評価を同時に行なうことが可能であるため、様々な分野での新規材料開発や、用途に応じた材料の最適化に大きく貢献することができます。

測定事例

ここでは、“塗る材料”に似た物性を示すセルロースナノファイバー分散系材料(以下、CNF)の測定事例をご紹介します。

CNFは環境にやさしい天然物でありながら軽量、高強度、低い熱膨張係数、吸水性が高いなどの利点からレオロジー制御剤、複合材料、熱絶縁体、光学および電子機器など、様々な分野で使用されることが期待されています。

特にレオロジー制御剤や複合材料などでの使用では、CNFのレオロジー物性(粘性、弾性など)を把握する必要があります。物性については様々な特徴が報告されていますが、なぜそのような振る舞いを示すか、つまりCNFが分散された材料の構造やその変化については未だに不明な部分が多いです。

化学的な解繊処理を施したセルロースナノファイバーを水に分散させたサンプル
(第一工業製薬株式会社様より提供いただいたサンプルをもとに作製)

以下の図は、レオメータがCNFサンプルへ与えた力(応力)と変形量の関係を示しています。両者の関係の特徴は小さな力、中程度の力、大きな力の3つの領域に分けることができます。偏光ハイスピードカメラを使うことで、この3つの領域では全く異なる構造に変化している様子を鮮明に捉えることができます。

  • 小さな力:等方的な構造(繊維間の網目構造)
  • 中程度の力:繊維間接触による凝集構造(凝集サイズは応力に応じて変化)
  • 大きな力:繊維配向による均一な構造

 

このような構造変化によって、形の維持や流動性の向上といった機能が発現していることが明らかになり、開発の目的に応じたCNF材料の最適化の検討が可能になります。

例えば、形の維持よりも変形・流動のしやすさにフォーカスをあてた開発では、なるべく凝集構造の形成を阻止する設計が重要になります。

逆に、形の維持にフォーカスをあてた場合は、この凝集構造の維持を目的とした設計が重要になるでしょう。

つまり、中程度の力の領域で観測された凝集構造の形成あるいは崩壊を上手くコントロールすることが大切になります。

例えば、ハンドクリームなどの物性をコントロールするためにCNF材料を利用する場合は、小さな力でハンドリング(容器からの取り出しや対象への塗りなど)できる必要があります。こういった利用環境では、重力程度の力くらいまで形を維持できれば問題ないケースが多いと思います。

一方、3Dプリントで作製される材料の場合(ナノファイバーを使ったバイオ3Dプリンティングなど)は、より大きな力に対しても形を維持する必要があります。

このためには、例えば凝集構造の形成や崩壊に対する以下の影響を調べる必要があります。

  • 繊維長(アスペクト比)や繊維表面の電気的な特性などの影響
  • 繊維濃度の影響
  • その他、流動を停止させたときの構造緩和の時間など

これらの検討においても、我々が開発した本計測システムは威力を発揮します。用意したサンプルをレオメータで測定するのと同時に、構造発達を偏光ハイスピードカメラによって観察すればよいからです。

今回はセルロースナノファイバー分散系に対する事例紹介でしたが、ある程度不透明な材料である化粧品やゲル材料などにも本計測システムを適用できることが、様々な計測を通してわかってきました。さらに、レオメータで計測される物性は同じような結果でも、構造の発達過程は材料に大きく依存することもわかっています。

物性と構造の同時評価という視点から生まれた本計測システムが、スピーディーかつ高効率な材料の新規開発や最適化検討に貢献し、新たな価値ある機能性材料の開発に役立てば幸いです。

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